第172回
真珠養殖の現場には「化粧まき漁場」という言葉があります。一例を挙げますと「三重の的矢湾や鳥羽近海の養殖場が該当し、外洋に面した、湾深く、栄養度が高い内湾を指します」(脚注1)。真珠層の構造から説明しますと「艶の良い真珠層は、9月下旬、水温20℃に下がった頃から形成され始め、12月以降水温13℃に下がってくると、美しい干渉色を放つ真珠層が20ミクロン程形成される」(脚注2)ということになります。真珠層は何千層という結晶層の集合体ですが、表層付近のそれらが薄く整然と積み重なっていればテリの素晴らしい真珠になるのです。環境要因(水温、塩分濃度、餌料等々)がテリを決めるという考え方です。
一方生理要因説もあります。真珠を作る臓器の「真珠袋」は貝の卵巣の中にあります。真珠袋は卵巣の中で卵(あるいは精子)に囲まれています。卵が増えてくれば真珠袋は外から圧迫され、内部の結晶層も圧迫され、結果としてテリの良い真珠層が生成されるのです。
脚注1:宮内徹夫『真珠の養殖』昭和41年(1966)
脚注2:和田浩爾『科学する真珠養殖』平成3年(1991)