たんぱく質を鞣(なめ)す

第170回

真珠層をミクロに観察しますと、炭酸カルシウムの結晶(アラゴナイト)が、薄いレース状のタンパク質の膜に包まれているのが分かります。最近の研究で、この膜がこの結晶生成の鍵を握っていることが判明しました。厳密には膜の中にある2種のタンパク質の複合体(Pif80とPif97)が主人公であることを突き止めたのです。

微量な存在であるタンパク質は、真珠というこの宝石を日常的に守る上でも役立っています。例えば酸に侵されたとしても、それは表面上だけであって、より深く浸蝕されないのは、この膜が酸をくい止めているからです。真珠をアルコール等に漬けてテリを向上させることは広く行われている技術ですが、これもタンパク質が関与しているらしいのです。生皮を鞣して革にすることにより人類は衣服を確保したのと同じように、この微量なタンパク質を鞣して、テリを向上させているのではないかという仮説を私は持っています。