アコヤ真珠が生き残るために<その2>美しさの独自性

第152回

真珠が美しいから人類最古の宝石になったということは異論のないことでしょう。何よりも歴史的事実であるからです。ではその「美しさ」の中味となると、これは百家争鳴の世界になるのです。何故かと言うと人によって美しさの基準、価値観等々がすべて異なっているからです。臨終間際の物言わぬ母の目に宿った一粒の涙に、90年余の歳月をかけて成長した一粒の真珠を見取る人間もいれば、光の幽かなゆらめきに放つ指先の薄緑の光彩に、彼女の心の奥底に宿るやさしさを見取り、生涯の契りを約した人もいるのです。

人の世界を離れて、真珠表層で起きる光の干渉現象を見てみましょう。鮮やかな赤や緑の光彩が球体に沿って複雑な消滅を繰り返している現象が観察されます。これはある種の蝶や孔雀の羽などにも見られる現象です。表層部のミクロの精緻な構造がこれらの現象を生み出します。ところが真珠の凄いところは上下半球で光彩はそれぞれ反対の色なのです。