第94回
養殖現場の人たちと久し振りに懇談する機会がありました。アコヤ真珠受難のこの時期、宇和海の無数とも言える入り江の、奥深く入った地域で頑張っている人たちです。
この連載がスタートした1999年の3年前、1996年が受難元年とも言える年です。「大量死」が始まったのです。生後1年未満の稚貝から3年目の母貝、さらに手術を終えた「クロ貝」まで、すべてのアコヤ貝が一斉に、貝柱を赤くして死んでしまう事件です。
水産関係の専門家が総動員されて原因究明に取り組みました。輸入した中国産アコヤ貝によるウイルス説が有力視されています。「きびしさは続いているが、ここにきて少し安定してきたかというか、先が見えるような気がしてきた」Aさんのこの言葉の背景には、事件後10余年、耐性を持ったアコヤ貝のやっとの出現があります。それは、犯人視されている中国アコヤ貝や外国産を積極的に輸入し交配させた選抜育種の結果です。逆転の発想の成果です。