核と真珠の相関性

第130回

私の好きな作家である沢木耕太郎氏の短編小説集『あなたがいる場所』の論評記事(朝日新聞夕刊2011.4.16)の一節です。 「…アコヤガイが内部で真珠を育てるように、…真珠の核になるものを自分の内部に入れて、どう変化していくのかを見るおもしろさがあった」 著者のこの言葉に、核と真珠の相関性についての最も一般的というか“普遍的”な図式があることを痛感させられました。厳密に言えば、図式そのものが間違っています。ダイヤモンドの場合は地中の深いところで、炭素元素が一定の諸条件を満たすと結晶核が生成し、その核に沿って結晶が成長します。核と結晶の間には深い相関性があります。 真珠の場合、核と“ピース”を貝の体内に入れて作るのですが、核はできる真珠のかたちを決める一種の「型」の役割しかないのです。主役は“ピース”であり、これが真珠袋に成長し真珠を作るのです。「内部が成長して出てくる」という点は著者の意図通りですが…。