第40回
五千五百年前の真珠を鑑定していた時のことです。ひとつのおもしろい現象に気がつきました。光が全く通らないのです。真珠がいわゆる不透明体になっているのです。
一緒に発掘された、さまざまな貝殻にも同じ現象が見られました。強い光をビーム状にして片側から照射しますと、普通の貝殻の場合は反対側は明るくなりますが、数千年を経たものはなりません。
その時は、発掘された物体が本当に真珠であるかどうかを判定することが課題でしたので、その現象については頭の片すみに置いておくだけにしました。
以来、透明・不透明とは何かということを考え続けてきました…。
物体内部に、①光を吸収する物質がある場合、②光を散乱する界面がある場合、透明体は不透明体に変わります。
数千年の時間を経た真珠層を電子顕微鏡で覗いて観ると、カルシウムの結晶を接着しているたんぱく質はすべて無くなっています。光を散乱する界面が生じていたわけです。