管状構造

第70回

真珠の養殖工程のひとつに「塩水処理」という駆除法があります。海の中で、貝殻に孔を開けて寄生する“ポリキーター”と称される生物はアコヤ貝にとって大敵ですが、濃い食塩水に貝を浸けますと死んでしまいます。貝は貝殻をしっかり閉めますから安全です。 ところがどう考えても論理的に説明がつかない養殖の工程があります。「真水浸け」です。真水に貝を何時間か浸けると、元気になり、珠もよく巻くというのです。実際に今でも養殖現場では盛んに行われていますから間違いなく効果があるのでしょう。 真水に貝を浸ければ、当然貝は貝殻をしっかり閉めてしまいます。貝殻は生き物ではないですから、なぜ貝が元気になるのか論理的に説明がつかないのです。 外套膜の細胞の中には、管状構造といって、貝殻に垂直に直径数ミクロンの孔を開け、外側の情報をキャッチする細胞があったのです。自分の論理が不十分だった一例です。