一行の重み

第55回

Y氏は、私が生涯の上で最も尊敬している数少ない先輩のお一人です。大学を出て会社に入った時の直接の上司であり、真珠の加工技術を教えてくれた方です。 1年後、氏は会社を去りました。が、その一年間の私への教育・特訓は今でも生き生きと想い出され、またこれまでの40年余、決して手放さなかった私の研究活動、その支えにもなっているのです。 「小松君、研究というのは何年間も苦労に苦労を重ね、夜も眠れないほど考え抜き、そして問題の解決策を見出した時、その内容を文章にすれば、たった一行で書き表せるものなのだよ」 ここ数年、私たちは真珠の「テリ」のメカニズム解明に取り組んできました。振り返ってみると、ジグザグの道でした。ここにきてやっとその正体が分かり始めました。詳細は別の機会に譲りますが、「真珠は自然のダイクロイックミラーである」が結論です。